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志学

思い付きの即興文。ほのぼの話っぽい。


 街外れにひっそりと存在している小さな教室。「雷塾 雷々組」と呼ばれるその塾には、普通とは異なる子供たちの集まりの場になっている。
 そこで講師をしている仮面の男ボルテージは、にこやかな笑顔で振り返った。
「この問題、誰か解けるかな?」
 黒板に白いチョークで書いた数式を指さし、教室内を見回す。広いとは言えない教室には不格好に机が並び、それぞれに特徴の濃い子供たちが席に着いている。
「あ、はいはい!」
 サイコキネシスで消しゴムを浮かせることに夢中になっていたホリックが、ボルテージの視線に気づいて元気よく手を挙げた。
「返事は一回でいいんだぞ。じゃあ、ホリックくん答えを」
「話聞いてなかったから、分かりません」
「正直に言うことはいいことだ。だが、授業をちゃんと聞くように。…教科書読んでなさい」
 やや困り顔でボルテージが言葉を返すと、ホリックは「はーい」と軽い返事をして閉じていた教科書を開いた。
「っあー、この式、見たことあるんだよな…」
 ギガデリは黒板の数式を書き写したノートを睨みながら小さく呟く。ラボに拉致される前に学んでいて、解いたこともあるものだった。すぐそこまで思い出せそうなのに、思い出せなくてモヤモヤとする。
 斜め前の席にいるエグゼが必死に問題を解こうと「ええっと…ええっと…」と小さく声を漏らす。その声をうるさく感じながら、ギガデリはそっと横目で左隣のグラビティを見遣る。グラビティは美味しいものでも食べてるかのように幸せそうな寝顔で居眠りをこいていた。最初から期待していなかったが、ここまで堂々と居眠りをしているといっそのこと羨ましく思える。
 右隣の机にいるアーミィの方を見ると、アーミィはぼんやりとしながら教科書をペラペラとめくっていた。教科書を読むというより流し見ているようだった。
「おいアーミィ、この問題解けたか?」
 ギガデリは小声でアーミィに声をかける。
「解けた。今やってる数式は飽きたから、先のを見てる」
 アーミィは教科書に視線を落としたまま、淡々と答えた。
「は? 何だよそれ、頭脳も最強かよ。お前のクローンは頭悪そうなのに…」
 皮肉交じりに言い返すと、アーミィは顔を上げて目を合わせてきた。
「知識を得るのは嫌いじゃない。あと僕の弟の悪口やめてよ。次言ったら撃つから」
 冗談ではなく割と本気の目だった。寒気を感じたギガデリはアーミィから目を逸らして、再びノートに目を移す。
「答え分かってんなら、何で答えねーんだよ」
「卓越した能力は周りに知れると色々と都合が悪い。社会情勢でそういうのも知った。ある程度は一般基準に合わせたふりをするほうがいい」
「…ああ、そ…」
 ギガデリはそれ以上は何も言えなくなって口を閉じた。
 アーミィと話をしている間に、黒板の問題はエレクトロが解答したようだった。ギガデリはアイツ半機械化して電算機使ったんじゃねえだろなと心の中で疑りながら黒板に書き足された解答式をノートに書き写す。書き終わった瞬間に、式の解き方を思い出した。今頃になって思い出したことが悔しくて頭を掻く。
 そしてそれが引き金となって、この教室の机に着席してからずっと感じている不満と威圧感の原因に意識が向いた。
「つか、何でテメェらがいるんだよ!?」
 後ろの席に着いている3人に向けて、声を大きくする。後ろに並ぶ3つの机には、Ⅸ籠と鎖と刺斬の姿があった。
 ギガデリに睨まれた刺斬と鎖は、互いに見せ合っていたノートからギガデリへ目を移す。
「旧世代のガキが理解するにはまだ早いってことよ!」
「いや、永遠に理解できる気しねーよ」
 得意気に言い放つ鎖に、ギガデリは引き攣った表情で言い返す。すると刺斬が不敵な笑みを浮かべた。
「俺らはクローンだ。オリジナルであるアンタらを超える必要がある。その為に造られたようなモンだ。それが戦闘能力であっても、学問であっても、な」
「言ってることは分からなくもねーけど、俺が気にしてんのそこじゃねーし」
「…ですよね、ボス」
「い…今、考えてるから話しかけるなッ!」
 不意に刺斬から話を振られたⅨ籠は、苛立った様子で声を荒げた。ノートに書いた式をじっと見て必死に問題を解こうとしているようだった。
「Ⅸ籠、その問題分からない? 兄ちゃんが教えてあげようか」
 すかさずアーミィが身を乗り出してⅨ籠の方を見る。
「うるさい! 兄貴面するな!」
 Ⅸ籠がぎりりと歯を噛んで、払い退けるように腕を振ると、アーミィは楽しそうに笑いながら身を引いた。
「鎖さん、4問目が違ってるみたいスよ。そこは引いた後に割った分の小数点が…」
「っだあああ! ンだよ、引っ掛け問題か!?」
 刺斬の指摘に鎖が大声を上げる。
「こら、静かにしなさい」
 と、ボルテージの注意が教室に響く。
「……」
 この状況に納得いかないギガデリは、半眼でクローン隊の3人を見る。問題が解けなかったこと以上にモヤモヤとした気持ちに包まれていた。
 
 
 
 
 
終わる

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