インデックスに戻る

名前を教えて

接続組とⅨ籠の初接触。刺斬がひたすらお節介なだけの話。


 大将に会ってこい、と。そう上層部から言われて、刺斬と鎖は教えられた会議室へ向かった。
 何の飾り気も無い色合いの廊下に、2人の足音だけが響く。
 クローン隊の頂点に立つ存在がどんな人なのか、刺斬はやや緊張していたが、鎖は「面倒くせぇ」と口を尖らせていた。
 目的の部屋の前で部屋番号を確かめ、刺斬がドアノブに手をかけると、鎖はニヤリと笑った。
「どんな筋肉大男だろうな?」
 そう言うと、刺斬は苦笑いを浮かべた。最強の存在から造られたクローンであると上層部が言っていた事を思い出したらしい。
「どんな人でも、一応は従いますよっと」
 刺斬はゆっくりとドアを開けた。
 どんな屈強な大男がいるのかと思えば、部屋の中にいたのは年端も行かない子供。長机の端に突っ伏すように肘を付いて、クナイを弄っている。
 2人は呆気に取られて、お互いに横目で目を合わせた。
「何?」
 小さく声を出して、子供がこちらへ顔を向ける。黒いヘルメットに黒いマントを纏った姿は薄暗い部屋に溶け込んで、余計に背丈が小さく見えた。
 部屋を間違ったのかという考えが刺斬の脳裏を過ぎったと同時に、鎖は慌てて部屋の外へ飛び出して部屋の番号を確認していた。
「失礼…。俺は刺斬と申します。あちらは鎖」
 刺斬は会釈をすると、子供は手に持っていたクナイを懐にしまって、まじまじと見つめてくる。
「そうか」
 興味ありそうな態度とは裏腹に、興味が無さそうに言葉を返された。
「…この部屋で間違いねぇ」
 すぐ隣に戻ってきた鎖が、刺斬の耳元で囁く。刺斬はこくこくと頷いて、背筋を伸ばした。
「中隊長に任命されましたので、ご挨拶に参りました。改めまして、刺斬と申します」
「俺は鎖だ。堅苦しい挨拶はしたくねぇ」
 2人の顔をじっと見て、子供が小首を傾げる。
「・・・前に会ったような。いや、気のせいか・・・」
 小さく呟いた後、溜め息をする。
「わかった。出撃の時、呼ぶから」
 子供は素っ気無く答えて、目を伏せた。
 その様子に、鎖はやれやれといったように肩をすくめたが、刺斬はじっと子供を見据えて口を開く。
「お名前を伺ってもよろしいか」
「すぐ死ぬかもしれないのに、名前を知る必要があるのか?」
 刺斬の言葉に、子供は不思議そうな表情を浮かべた。皮肉ではなく、ただ本当にそう思って出た言葉のようだった。
「俺は簡単には死にませんよ」
「今までオレの部下に配属されたヤツ、皆そう言ってた。でも死んだぞ」
「俺と鎖さんは、他の連中とは違いますんで」
「今までのヤツも、同じような事言ってたけど・・・、まあいいや。お前たちは好きにしてていい。いちいちオレに構わなくていいぞ。お世辞とかご機嫌取りとか、そういうの好きじゃない。言いたい事は好きに言え。出撃の時、オレの言う事聞いてくれればいいから」
「分かりました。中隊長として肝に銘じます」
 刺斬は一礼した。
「何か、ずいぶんと冷めたガキだな」
 隣にいる鎖は渋い顔をして刺斬と目を合わせる。刺斬は至って真剣な顔で頷いた。
「ありゃあ、良くないっスね」
「だよなあ。全ッ然可愛げがねぇガキだ」
「顔色が悪い」
「は? 顔色?」
 予想外の刺斬の言葉に、鎖は目を丸くした。
 刺斬は子供に近づいて、長机を挟んで対峙する。
「俺個人として、捨て置けない事があるんで、進言させていただきます」
「何?」
「このお部屋は暗いです。目が悪くなります」
「…はぁ?」
 子供はひと回り大きな声を出した。
「それに、顔色が優れないようですね。髪の艶も少し薄い…。ちゃんとした食事はしてますか? 睡眠は?」
「薬飲んでるし、多分寝てる…。・・・いや、お前に関係ないだろ」
「俺や鎖さんを指揮するんですから、健康管理はしっかりしていただきます」
「オレの管理は他のヤツがやってる」
「組織からの最低限の管理とお見受けします。俺は常に最高の管理をさせてもらいます」
「お前、何言って・・・」
「好きにしていいと言いましたよね? 好きにさせてもらいます」
「おい、刺斬・・・!」
 鎖が顔を引きつらせて刺斬の肩を掴んだが、刺斬は完全に子供の方に集中していた。
 当の子供は、あからさまに怪訝な顔をしている。
「何なんだお前。何が目的だ? 名前が知りたいんだったな? オレはⅨ籠って呼ばれてる。クロウでいいぞ。これで気は済んだか?」
「ではクロウさん、ボスとお呼びさせていただきます。曲りなりともあなたの部下なので。・・・早速ですが、今日の夕飯から食事のご用意は俺がします」
「…好きにしろ!」
 Ⅸ籠と名乗った子供は、大声で言い捨てて会議室から走り去って行った。
 静まり返った会議室で、バタンと派手な音を響かせて刺斬が長机の上に顔を伏せた。
「やっちまった!」
「刺斬、お前の悪いクセだぜ・・・」
 鎖は張り付いたように机の上で微動だにしない刺斬の頭をぽんぽんと叩く。
「だって、俺らのボスっスよ? あんな子供だなんて、しかも健康不良児・・・。筋肉大男どこいった・・・」
「気持ちは分かるけどよ。お前は色々やりすぎだ。初日から踏み込みすぎて…」
「あ!」
 鎖の言葉を遮って、急に刺斬が頭を上げる。
「しまった、クロウさんの好きな料理を聞きそびれた」
「・・・子供だし、カレーかオムライスでいいんじゃねぇの?」
 半ば呆れた鎖は、目を泳がせながら適当に返事をした。
 
 
 
 
 
終わる

作品一覧に戻る