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anomaly・短編

「TOOL」のグラビティの補足というか、おまけ話。
何故グラビティが重力を自在に操れるのか。それは神様からの授かり物だから。
グラビティがtracesと同じ目をしているのは、traces魔王から重力の魔力を貰ったからだと言い張ってみる話。


「traces、ついておいで」
 何を見つけたのか、Aがtracesの白い手を引いた。
「…何処へだ?」
「地上界」
 tracesの問いに、何ら躊躇いも無く答えた。
 地上界に行く事等、本来ならば無用な行為。
 しかし、常とは異なるその道化の様子に、tracesは些か不安を感じた。
 
 
 気紛れな道化師が空間に穴を開けた先は、人間から見れば広いであろう白い部屋。
 多数の生命の息吹を感じる薄暗い所。
 壁の様に積まれている、幾つもの格子のある箱、その中に生物が入っている。
 しかし、其れらの生物は、何処か不思議な姿であった。
「どう思うカイ?」
 異形の生物を見回していたAが問いかけた。
「…是等の生命をか?」
「そうだヨ」
 tracesはすぐ近くの格子の箱の中の生命に手を翳した。その生命は怯える様子も無く、tracesの掌に見入る。
 生命の細胞がもつ奥底の記憶を読み取り、tracesは細い目を少しだけ見開いた。
「…世の摂理から外された者…」
「御名答」
 Aはくくくと喉を鳴らせた。
 此処が地上界の何処かは解らないが、此の様な生命が存在する事は有り得ない。
「ニンゲンが、面白い遊びを見つけたらしいヨ。これらがその結果」
 複数の種を一つにするすべを、人間は得たというのか。
 tracesは部屋を見回す。異形の者たちは、静かな目線でこちらを見ている。
 覇気の無い、生きることすらも諦めたような瞳。助けを請う事すらもしない。
 何と哀れで不様な事か。
「どう思うカイ?」
 Aが再び問いかけてきた。
「…貴様、何を企んでいる?」
「何も企んではいないヨ。ただ、ニンゲンが隠れてこんなコトをしているのを教えたかっただけだヨ」
「……」
 暫し考えてから、tracesは辺りの生命に目をやり、その中でまだ幼く小さい生命に目を留める。
 他の者より比較的人間に近しい波動と容姿を持つそれに近付き、tracesは己の背に有る黒い翼を広げた。
 深い眠りについている幼い生命の頭に、そっと手を触れる。
「…我は人間が嫌いではない。だが、この禁忌なる行為を我が直に説いた所で、人間は何も変わらぬだろう」
「寧ろ、神の実在に歓喜し、支配しようと愚行に走るかもしれないヨ。ニンゲンは悪食だかラ」
 Aは嘲笑った。tracesも、その見解に賛同であった。この時代の人間は生物界の最高地に立ち、畏伏する事を知らない。
「…此の者には、強い生命力を感じる。地上を支配する地の魔力…。少しだけ分けてやった」
「ほぅ…。地上の者に直接関与したがらないキミが、珍しいネェ」
「…少々過ぎた力だが、人間の禁忌を止めるには十分だ」
「面白いネ」
 ゆっくりとAが笑顔を作る。
「己の生み出した生命に牙を向かれるニンゲンは、さぞかし後悔するだろうヨ」
 先が楽しみだ…と、道化は愉快そうに言った。
 tracesは再び部屋を見回す。
「…是等は、地上の者よりは、我らに近しいのかもしれぬな」
「ここらの生命が夜空の星程集まった所で、ワタシ達には釣り合わないヨ。…情でも湧いたカイ?」
 道化師の笑みでAが顔を覗き込んできた。
「…否」
 tracesは目を瞑って短く言葉を紡ぐ。
 空間に穴を空け、此の場を後にした。
 
 
 
 地の魔力以て地を翔よ。
 生の限り運命に抗い、道を築くが良い。
 
 造られし、ヒトの子よ。
 
 
 
 
 
終わる

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