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誕生日

「出掛けてくるよ」
 短く小さく、言い捨てるようにだけ言って、アーミィは立ち上がった。
「ドコにだ?」
 窓の縁で寝そべっていたグラビティが頭を起こす。
「仕事は、明日だろう?」
 それに遅れるように、エレクトロが配線コードの整理している手を止めた。
「どこか」
 わざと意地悪く答えないで、アーミィは二人に背を向けた。
 
 
数時間後。
 
「帰って来た…」
 アーミィの発信機を探知して、エレクトロが声を出す。
 暫くして、足音が近付いて来た。
 しかし、いつもの軽く素早い足音では無く、ゆっくりとしたものだった。
 ただいまの声と共に、アーミィが現れる。
 三つの箱を重ねて、大事そうに抱えていた。
「買い物かよ」
 グラビティが重そうに持っているアーミィから、ひょいと箱を持ち上げて机に置いた。
「静かに置いてよ」
 箱を気にして、アーミィはグラビティの脇腹を肘で突く。
「そんなに荒く置いてねぇよ」
 口を尖らせるグラビティを横目で一瞥して、アーミィは重なっている箱を、机の上に並べて置いた。
 その箱のひとつを開ける。
 出て来たのは、チョコレートケーキだった。
「ケーキ? どうしたんだい、それ?」
 エレクトロが目をぱちぱちしながら問う。
 アーミィは、その問いには答えず希薄な表情で笑った。
「エレクはこれ」
 もう一つの箱を開ける。
 中にあったのは、果物の沢山乗ったフルーツタルト。
「フルーツ、好きだから」
「わぁ、綺麗だね。この赤いの…さくらんぼ、大好きだ」
 嬉しそうににサクランボを指差すエレクトロ。
「グラビティはこれ」
 最後の箱を開けると、出て来たのは丸いスフレチーズケーキ。
「あんまり、甘く無いのだって」
「ん…」
 自分の肌の色に似たケーキをまじまじと見るグラビティ。
 言葉には出さないが、喜びの表情の浮かんだ顔をする。
「今日、誕生日」
 エレクトロとグラビティにフォークを手渡して、アーミィは言った。
「…え?」
「はぁ? 誰の誕生日だよ」
「僕らの、誕生日」
「俺は、いつ造られたかの正確なデータは無いが…」
「オレも、誕生日なんて知らねぇぞ」
 理解不能の表情を浮かべる二人。
「僕が決めた」
 と、はっきりと大きな声の答え。アーミィにしては珍しい声だった。
「施設から逃げ出した日だよ。僕らが自由になった日」
 目を閉じて、いつもの小さく淡々とした声に戻す。
「自分が、自分として生きられるようになれた日だから…」
 言い聞かせるように、ゆっくりとアーミィが言った。
 エレクトロとグラビティは顔を合わせた後、アーミィを見て笑顔になる。
「そうだった」
「ああ、大事な日だな」
 
 
 
その日の夜。
三人は微妙な顔つきでケーキとにらめっこをしていた。
それぞれの目の前には食べきれて無いケーキ。
8号のケーキは、数人で食べるものだとは知らず、胃もたれと格闘していた。
 
 
 
 
 
終わる

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