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  • 日常のこととか、創作や二次創作の絵や妄想を好き勝手に綴っていく日記。
    ゲームや嗜好品の感想も。

  • うちよそ話

    ★ふいに思い付いた、あやさん宅とのうちよそ話。とても短い。
    書いてる時、すごいニヤニヤしながら書いてた。…楽しい!


    「レン」
     柔らかな声で呼ばれる。
    「レンってば」
     ほんのり甘えを帯びた、心地の良い響き。
     名を呼ばれたレンリは薄く目を開ける。
     視界いっぱいに広がる、サラの顔がほほ笑んでいた。
    「こんなところで寝ちゃったら、風邪ひくよ」
     レンリは状況が呑み込めないまま体を起こし、辺りを見回す。
     どこかの部屋。でも見たことがある。サラの家のリビングだった。
    「ソファーで寝ちゃうなんて、すごく疲れてたんだね。もうすぐ夕飯できるから、まっててね」
     サラはふふっと笑ってキッチンへ向かう。薄紅色のエプロンがひらりと揺れた。
     サラの穏やかな様子に違和感を覚える。穏やかというより、妙に親しい雰囲気だった。それにサラは「レンリさん」と呼んでいたはず。
     レンリは訝しんでサラの背中を凝視する。サラの気配に間違いはない。でも魂が曖昧で見えにくい。
     鼻の奥に沁みる煮物の香り。とんとんとまな板をたたく包丁の音。いつの間にか体に掛けられていた毛布の手触り。どれも鮮明なのに、サラの魂だけが明確に見えなかった。
    「サラ」
     小さな不安から、レンリはサラの背中に声をかけた。
    「なぁに?」
     呼ばれたことを嬉しそうに振り向くサラ。後を追うように長い茶髪がそよぐ。何の憂いもない優しい笑顔が眩しい。
    「…いや、何でもねーよ…」
     どんな言葉を続ければいいか、何も思いつかなかった。
     サラは子供をあやすように「もう」と呟いて手を洗い、こちらへ向かって来る。
    「どうしたの? 今日は何だかヘンだよ?」
     変なのはアンタのほうじゃねーか?と言い返そうとして、できなかった。
     鼻と鼻が触れそうなくらい、サラに顔を寄せられて息が止まった。
    「レン…」
     サラが少し顔を引き、求めるような眼差しで見上げてくる。紅く染まった頬、薄く開いた唇。
     はっと息をのんだ、その瞬間。
     
    「いい夢見れたかい?」
     男の声。
    「んなっ…」
     レンリは絶句した。顔を上げて辺りを見回す。リビングではなく、ルトロヴァイユのカウンター席に座っていた。
     カウンターの奥で、巽がにんまりとした笑顔で立っている。
     レンリは、目をぱちぱちとさせた。
     そんなレンリを見て、巽が満足そうな表情を浮かべる。
    「サージェイドくんがね。前に夢魔と会ったことがあるらしくて、その時に夢に干渉する方法を覚えたみたいなんだ」
    「夢魔…」
     レンリの頭に、サラに瓜二つの姿をしたサキュバスが思い浮かぶ。ヒメカと腐れ縁の魔族だ。
     背後に気配を感じて振り向くと、真っ白な肌の化け神が締まりのないへらへらとした笑顔で立っていた。いつも被っている黒いフードはしていなくて、大きなS字型の角を曝している。その角から、魔力とは違う不思議な力を微量に感じた。
    「…それで? どんないい夢を見たんだい?」
     興味津々に巽が訊いてくる。
    「おい、どういうつもりだ」
     レンリは片眉を上げて巽を睨んだ。巽はクスっと笑い肩を竦める。
    「連休続きでお店が混んでいたからね。ゆっくり休めてないだろう? ここでうたた寝しちゃうくらいだし。だからせめて夢くらいは癒されるようなのを…と思って、サージェイドくんに頼んだんだよ」
     悪気など一切無いのだろう。晴れやかな様子で巽が言った。
    「レンリ…が見た、夢は…サ」
    「テメェ!」
     後ろにいる化け神が言いかけて、レンリは反射的に振り向くと同時にその口を片手で塞いだ。もう片方の手で角を掴んで無理やり引き寄せる。
    「俺を敵にしたくなかったら、誰にも言うな」
     なるだけ低い声で脅す。化け神は慌ても怯えもしなかったが、こくこくと頷いた。コイツは変なヤツだが、人の言うことには素直で従順だ。
    「はは、ごめんよ。独り占めしたいくらい、いい夢だったかな?」
     巽が苦笑いをして、申し訳なさそうに言ってきた。
     独り占め。…独り占め…か。レンリは巽に言われた言葉を自分に言い聞かせるように胸中で繰り返し呟く。
     そうかもしれない。もし、サラと一緒に暮らすようになったら、ああなってたんだろうか。
     レンリは夢の光景を思い起こして大きく息を吐く。
     甘い余韻を残す夢は鮮やかすぎて、心に深く残っていた。

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