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  • 日常のこととか、創作や二次創作の絵や妄想を好き勝手に綴っていく日記。
    ゲームや嗜好品の感想も。

  • うちよそ話

    ★仕事の疲れでぐったり気味でテンション低いが、絵も描かない文も書かない日が続くのには耐えられない。この性格は自滅に繋がるのも分かってる。
    でも、できる内に、やっておきたいんだ。
     
    あやさんの世界観お借りしてのお話です!
    思い付きのお話で、モブ娘がよく出てくるのでご了承くだされ…。
    あやさん宅のお話のサイドストーリーとして流し読みしていただければ幸い。


    「おい、白いの」
    「サージェイドくんだよ、もう」
     レンリに呼ばれて顔を上げると、後ろからサラに抱きしめられた。サージェイドは呼び主であるレンリの顔を見つめて、目をぱちぱちとさせる。呼ばれ方に関して、悪神と呼ばれる以外は特に気にしていない。名はあるが自分の存在の証明を確立するほどのものには至っていないからだった。
    「巽サンは許可したけどよ。オマエ、接客なんかできるのか? 注文間違えずに聞けんのか? 客への言葉遣いはできんのか?」
     レンリが懸念を述べる。サージェイドはレンリの言葉に逐一頷きながら返事をした。
     今日は祝日という人間にとっての何かの特別な日らしい。サラは学校がお休みで、この喫茶店ルトロヴァイユでずっとアルバイトをすることになっている。
     巽の趣向で、今日は動物を模した着ぐるみパーカーを着て働くことになっていた。サラは桜色の兎で、レンリは黒灰色の狼の姿だった。
     自分は白い竜を模した姿だが、これは巽お手製ではなく、自分の体の一部を再構築したもの。これなら翼や尻尾はそのままでいいし、角を隠す必要がない。巽は猫の着ぐるみを着せたがっていたが、掌握外の物質で体を包むのは空間認識能力が低下するので、何とか言い訳をして断った。人間と違って目や耳などの器官で周囲を完全に確認しているわけではない。
    「今日は祝日だから、お客さんがたくさんくるよ。みんな頑張ってね」
     巽がカウンターの奥から優しく声をかける。料理の下準備で忙しそうだった。
     今日はたくさんの来客が予想されていた。巽とサラとレンリでも大忙しになる。そこでサージェイドは店の手伝いをしようと決めたのだった。いつも世話になっているし、店で働くサラやレンリの行動を見ているから、だいたいの身のこなしは理解している。
    「サージェイドくん、無理しねいでね」
     サラが笑顔でぴょんぴょんと跳ねる。兎であることを意識しての行動なのかはわからないが、とても楽しそうにしている。
    「足引っ張んじゃねーぞ、白いの。…何かあったらすぐ俺に言え。フォローしてやるよ」
     レンリが柔らかな表情で言う。いつもなら毛嫌いして食って掛かってくる死神だが、今日は機嫌がよかった。サラの兎姿に浮かれているのを表に出さないように抑えている気配がする。
     開店時間となり、サラが出入り口の扉を開けると、さっそく男女の2人組が入ってくる。その後にサラと面識はないが同じ学校に通う女の子が入ってきた。レンリがこの店でアルバイトをするようになってから、良く来るようになった女の子だった。
    「いらっしゃいませ!」
     3人で声を重ねる。サージェイドは水の入ったコップをトレーに乗せて、サラがテーブルへ案内した客のところへ行った。
    「いラッシャいませ。ご…注文決まルしたら、呼ぶくださイ!」
    「あら、ありがとう。ふふっ…」
     男女組の女性客が、サージェイドの言葉遣いに小さく笑い声を漏らす。サージェイドが首から下げているカードに目を遣ると「頑張ってね」と言ってくれた。カードは巽にもらったもので“上手に話せるように練習中です。がんばります”と書かれているものだった。
     次に常連の女の子のところへ行く。同じように声をかけてコップを置くと、女の子は無言のまま小さく頭を下げた。
    「……」
     去り際に、サージェイドは女の子の様子を探った。強い願いを秘めた感情に気づいたからだった。この女の子が【願いを叶える存在】を認識し、願いを自分に言ってくれれば、どんな願いであろうと願いの重さに値するものと引き換えに叶えられる。
     …が、サージェイドはすぐに諦めた。事象や法則を操作する概念が、こんな姿で人間と同じように振舞っているとは思いもしないだろう。この世界に住まう無数の生命のひとつとしか思われていないだろうし、この店を出て数時間もすれば記憶の片隅に追いやられて忘れる程度でしかない。なにより、周りの者が見えないくらい、意識が一点に集中していた。
     ひと組、またひと組と、客の人数が増えていく。何度か店を訪れている客は、今日のサラやレンリの姿を可愛いと褒め、初めて来た客は風変わりな店だと面白がっていた。
     やがて、店内に流れる音楽よりも人々の話し声や物音のほうが大きくなる。
     サラとレンリは慌ただしく店内を速足で動き回り、巽も料理作りに手一杯で店内の様子まで見ていられないようだった。
     サージェイドは意識の輪を広げて、店内にいる者たちの様子を探り、待てないという欲求の強い客を優先に対応した。人間は時間をとても大切にする生き物だ。時間経過の不満は大きい。生きる時間が短いせいで、時間の価値を重く見ているからだろうか。
     ぽつりぽつりと人間ではない者もいるが、人間を真似て苛立った態度を見せる者もいる。その内の何人かはこちらの存在に気づいて恐怖し、白々しい謙虚な態度に変えた。
    「ドラゴンさーん、お水くださーい」
     声をかけられて、サージェイドは振り返る。永い間ドラゴンの姿を模していた身としては、ドラゴンと認識されるのは嬉しいものだった。嬉々として水入りコップをテーブルに置くと、客は「あれ? しっぽ動いてる…?」と訝しんできた。無意識に尻尾を振っていたかもしれない。サージェイドは客にくるりと背を向け、腰を振って尻尾を揺らす仕草でこの場を誤魔化した。
     時折、悪戯な客がサラにちょっかいを出す。その度にレンリはサラを庇い、客への対応も当たり障りなく済ませていた。レンリは切れ者だ。こういった客の対応はレンリに任せておいたほうがいい。
     話に夢中になっている2人組の女性客に呼ばれ、サージェイドはすぐに向かった。2人は他愛のない世間話で盛り上がっていて、オムライスとグラタンを注文した。
     サージェイドはグラタンを頼んだ女性客の顔をじっと見た。食べたいと思っているのはハンバーグだからだった。何故、ハンバーグを食べたいと思っているのにグラタンを頼んだのか。
     注文を復唱しても2人の様子は変わらず、受けた通りの注文を巽に伝えた。
     …が。
    「私、ハンバーグを頼んだんだけど?」
     オムライスとグラタンを持っていくと、グラタンを頼んだ女性客は困った表情を見せた。
    「はんばーぐ…?」
     さっきと言っていることが違うのを不思議に思って、サージェイドは女性客の心を探った。悪意は無く、本当にハンバーグが食べたくてそれを注文したと思い込んでいた。それなら注文するときにそう言えばいいのに、どうして考えていることと違うことを言ったのか。
     サージェイドはこくこくと頷いてグラタンをトレーに戻す。誰も見ていない店内の端に行き、グラタンに掌を翳した。ほんの数秒でグラタンがハンバーグに変わり、皿もそれに合わせた平皿に変わる。
    「おいオマエ、何しやがった」
     異変を感知したらしいレンリが、すぐに駆け寄ってきた。
     サージェイドはレンリを見上げてレンリの思考に言葉を送る。
    『あの人間、言った料理と思ってた料理が違ってたんだ。オレは言われた注文通りにした。そうしたら違うって言われた。心に思ってた料理がよかったのか? 人間って言葉に出したほうが正しいんじゃなかったのか?』
    「いや、その判断でいい。客の勘違いってヤツだな。しょうがねーな。…で、その料理は?」
    『ハンバーグがいいみたいだから、分解してハンバーグに変えた』
    「何だよそれ…」
    『人間が昔に憧れて求めてた錬金術みたいなものだよ。元素分解して違うものに再構築する方法。この世界にある元素の種類は少ないから簡単なんだ。不足分の元素はオレの一部を使って、過剰分はオレが吸収した』
    「食ったヤツに影響は?」
    『長い間オレの中にあった元素が微量に入っているから、一時的に物質代謝率が上がって細胞が活性化するかも。十数年くらい老化しないだけだよ』
    「影響あんのかよ。ンなモン食わせられるか。巽サンに作り直してもらう」
     そう言って、レンリはサージェイドが持っていたトレーを取り上げた。
    『十数年なんて短過ぎて誤差にもならないよ』
    「オマエの基準で考えんじゃねーよ。ホンっと適当な性格しやがって…。また何かあったら、絶対に俺に言えよ?」
     呆れ顔を浮かべて、レンリは巽のところへ向かう。巽に事情を話し始めた。
     サージェイドはそういうものなんだなと理解して、改めて人間の世界は難しいと思った。まだまだ存在差異の壁の厚さは果てしない。
    「あの…、すみません…」
     小さな声がして、サージェイドは振り返った。常連の女の子がレンリを見て手を挙げている。レンリは女の子の小さな声が聞こえず、次の客の声に反応していた。<
    「お待たせす…しまシた!」
     サージェイドは代わりに常連の女の子に近づいた。
    「あ…。あの…。紅茶、ください」
     女の子は表情を曇らせてサージェイドを見上げる。
    「かしこマる…ましタ!」
     返事をしてテーブルの上の伝票立てから伝票をとると、その伝票にはレンリが書いた“紅茶”の文字が並んでいた。レンリに何度も紅茶を注文していたらしい。紅茶が大好きなのかと思いながら、サージェイドは巽に紅茶の注文を入れた。
     その後、サージェイドは常連の女の子が気になり、びたびその子の様子を探っていた。秘めた願いの感情は強いが、隠そうと必死だった。そして、その目はレンリばかりを追っていた。レンリがサラに何か話をすると少しだけ感情が暗くなり、レンリが接客で笑顔を見せると明るくなる。紅茶をレンリに頼んでは、ゆっくりと時間をかけて紅茶を飲み、冷え切った紅茶が無くなるとまたレンリに注文していた。
     やがて閉店時間となり、サラが客のいなくなった店の扉に「CLOSE」の札を下げる。サラとレンリは大きく息を吐いた。
    「おつかれさま! 今日は忙しかったね。サージェイドくん、手伝ってくれてありがとう!」
     サラは疲れていながらも気分は晴れやかで元気だった。
    「大きなトラブルも無かったしな」
     レンリがちらりとサージェイドを見て言う。注文の取り違いで騒動になる可能性があったことには触れなかった。
     そして、レンリは常連の女の子のことも客のひとりとしか思っていないようだった。
     
     翌日、サージェイドはルトロヴァイユの近くにある神社に来た。
     地面を啄んでいた雀の群れがサージェイドの気配に気づいて、一斉に飛び去って行く。
    「サージェイドくん。来たのかい」
     穏やかな笑顔の初老の男が出迎えてくれた。ルトロヴァイユの常連客であり、この神社の主神とされている神だった。
    「来タ!」
     サージェイドは返事をして手を振る。境内の御神木である大きな桜の樹の根本に並んで座り、主神に団子を渡した。昨日の手伝いで巽が「おこづかい」をくれて、それをここに来るまでにあった店で団子と交換してきた。この交換は面白い。対価で別のものを得るというのは、自分がやっている願いを叶える仕組みに似ている気がする。
    「ありがとう。一緒に食べよう」
     主神が本堂に向かって手を差し出すと、本堂から霊体の狐が姿を現し、くるりと宙返りをすると人型に変化する。人に化けた狐は茶の入った湯飲みを2つ、盆に乗せて運んで来た。
     サージェイドと主神が狐から湯飲みを受け取ると、狐は一礼して本堂へ戻って行った。
    「ここの生活には慣れたかい?」
    「ウん。テンチョーも、サラも、レンリも、優しイ」
    「それは良かったね」
     主神は嬉しそうに頷いた。
     サージェイドは、主神に異国から来た位の高い妖怪だと思われていた。どちらかというと自分は妖怪というより怪奇と言ったほうが合っている。けれど、自分の存在を説明するのが難しいから、妖怪のままでいいと思っていた。それに、かつてあらゆる願いを叶え続け信仰心を一身に受けていた存在だと知られてしまったら、また悪神とされて他の神々から今以上に力の隔絶をされてしまうかもしれない。これ以上、力の供給を減衰させられたら力の源である半身のほうが暴発する可能性がある。それだけは絶対に避けなければいけない。
     ぽかぽかとした日差しを浴びながら主神と言葉を交わし、団子を食べ終わると、サージェイドは伸びをした。
     人の気配を感じて顔を向けると、ひとりの女の子が境内に入って来る。昨日、ルトロヴァイユにずっと居て紅茶ばかり飲んでいた女の子だった。
    「ああ、あの子は…」
     主神が小さく呟いて立ち上がった。
    「少し、行ってくるよ」
     そう言って、主神は本堂の前で手を合わせる女の子へ近づいた。手を合わせる女の子の手を両手で包み、目を閉じる。本堂から霊体の狐が2匹出てきて、主神の左右に並んだ。2匹の狐は同時に宙返りをし、人の姿に化けると、両手を天へ向け空を仰いだ。
     主神と狐の姿が見えていない女の子は硬く目を閉じ、心の中で何度も何度も願いを唱え、祈りを捧げた。
     サージェイドは女の子の魂を探った。名前はユミコで、占いの雑誌を買い漁り、その日の運気が上がる小物や食べ物を調べ、“おまじない”という簡素な儀式のようなものに没頭している様子が視える。その行動は全て、ある人物へと向けられていた。ユミコの頭の中はその人物のことでいっぱいだった。
     ユミコは合わせていた手を解き、深く頭を下げると踵を返して帰って行った。
     戻ってきた主神が隣りに座り、口を開く。
    「あの子は、君も見たことがあるだろう? この神社にも毎日のように来てくれるんだよ。内気な子だが、とても熱心でね。願い事を叶えてやりたいが、私には…。心の悲しみを和らげてやることしかできない…」
     噛みしめるようにゆっくりと話す主神は、歯がゆい気持ちで満ちていた。
     そうだろうなとサージェイドは思った。ユミコが願っていたのはレンリ、つまり死神と結ばれることだ。主神もレンリが死神だというのは知っている。レンリほどの魔力の持ち主を、「祈る」だけで並みの神が易々とどうにかできるはずがない。
     オレが代わりに…と、言いたい気持ちを抑えて、サージェイドは俯いた。
    「すまないね、暗い話をしてしまった」
     主神が苦笑いを浮かべる。
    「サージェイドくん、ルトロヴァイユにあの子が来たら、見守ってやっておくれ」
     
    日を置かずして、ユミコは再びルトロヴァイユに来店した。今日はレンリは休みで、学校帰りのサラが和風メイド姿でアルバイトをしていた。
     サージェイドはいつも座っているカウンター端の席で、ユミコの様子を探る。
     ユミコは店内を見回し、サラに声をかけられると紅茶を頼んだ。紅茶を飲みながら15分ほど時間を過ごし、レンリが居ないと分かると早々に会計を済ませて店を出て行った。
     次の日はサラが休みだった。ユミコは学校が終わると迷わず来店し、レンリに何度も紅茶を頼む。片手には手紙が握られていた。手紙の内容を透視すると、レンリへの想いが綴られている恋文だった。けれど、ユミコにはその手紙を渡す勇気が無く、閉店の時間を迎えた。
     手紙を渡すことすらできないなんて、不憫な人間だなとサージェイドは思った。この世界の物理法則に囚われている人間ができることなんて、極々限られたことだけなのに、その中のできることすら、できずにいる。
     ユミコの強い想いが【恋】であることは、サージェイドにも察しがついていた。サラも求めていた【恋】というものは、幸せな気分にすることも、人を狂わせるほどの強い感情を生み出すこともある。発生原理は不明だが、形式は様々で派生は複雑だ。唯一存在である自分には種族繁栄の本能について全く分からないが、【恋】というものは子孫を残すためのものとは少し違うようで、本能というよりは理性に寄ったものの気がする。
    「【恋】って、ナンダロウ…」
     人間を真似て独り言を言ってみる。言ったところで何も変わらないのだけど。
    「辞書でも読んでろ」
     レンリがテーブルを拭きながら不愛想に言った。
     この日、ユトロヴァイユでアルバイトを終えたレンリが店を出ると、サージェイドはその後を追った。
    「あ? 付いて来んなよ」
     レンリはすぐに気付いて、歩きを止めた。目を細めて、威嚇するように見てくる。
     ユミコのことを訊いてみると、レンリはふんと鼻を鳴らした。
    「あんだけ見られてて、気付いてないわけねーだろ」
     それならと、話を続けようとしたが、その前にレンリが口を開いた。
    「テメェ…。あの女の願いを叶えようなんて考えてやがんのか?」
     鋭く睨んでくる。それに呼応するように、夕日に照らされた周辺で魔力の流れが活発になった。この魔力の流れは、先制攻撃してくる気でいる。
     サージェイドは両手をぷらぷらと振って魔力の気流を乱した。力づくでレンリをどうにかしたいわけではない。
     それに。
    『オレに願いを叶えるか叶えないかの決定権は無いよ』
     否定も肯定もしないし、できない。
    「だったら黙ってろ。オマエの出る幕じゃねえ」
     そう言い捨てて、レンリが歩き始めた。背中からぴりぴりとした感情が伝わってくる。
    『あの人間は、もうすぐ死ぬ。君にも視えてるだろう?』
     ユミコの寿命は残りわずかだった。今の未来の分岐を進めば、交通事故で頭を打って全身麻痺となり、微かな望みをかけた手術も失敗して死ぬ。
    「だからどうした」
     溜め息交じりで、レンリが横目で振り返る。
    『分かってるなら、少しくらい声をかけてあげるのが人間じゃないのか? 君のことが好きなんだよ?』
    「俺はもう人間じゃねーよ」
     やれやれというように、レンリは再び足を止めた。
    「テメェ、適当な性格のクセに、変なところに拘りやがるな。あの女に無駄な期待させてどうする? 死ぬ悔いが残るだけだ。夢も恋も、追いかけてる時が幸せな場合もあるんだ。オマエが思っている以上に、人間ってのは面倒くせーんだよ。よーく覚えときな!」
     一方的に話し、レンリは地面を蹴るように跳び上がって、日の暮れた闇夜に消えた。
     サージェイドは街灯が点き始めた道で、静かに立ち尽くした。
     
     それから1か月も経たないうちにユミコは交通事故に遭い、視えていた通りの最期を迎えた。
     けれど、サージェイドはユミコの魂を見送りながら、不思議な気持ちでいた。あんなにも恋焦がれていた想いは、死を迎えることで平静なものへと変わっていたからだった。レンリを想う気持ちは確かにあったが、それは叶わないものだと知っていたらしい。
     レンリが言っていた通り、レンリを追い続けることが毎日の楽しみであり、その楽しみの奥には想いが叶わない苦痛とサラへの嫉妬も隠れていた。
     ユミコの魂は複雑に絡む感情から解放されて、安らぎを得ていた。

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