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  • 日常のこととか、創作や二次創作の絵や妄想を好き勝手に綴っていく日記。
    ゲームや嗜好品の感想も。

  • レシピの愛情

    Ⅸ籠と刺斬のほのぼの話。


     Ⅸ籠は、狭いキッチンに立って料理をしている刺斬の微かな鼻歌を聞きながら、テーブルに肘をついて手持ち無沙汰に読む気の無い本をめくっていた。刺斬の機嫌はとても良さそうで、鼻歌は…多分聞こえてないと思ってるだろうけど、Ⅸ籠にはしっかり聞こえていた。何の歌なのかは知らないが。
     刺斬が食事時に必ず呼びに来るものだから、いちいち呼ばれるのも面白くないので、今日は先に来た。ただ、それだけの理由だった。タバコの匂いが微かに残るこの部屋は、正直言って好きではない。水槽に入った兄たちのいる部屋の方が落ち着くし、居心地がいい。
    「ピーマンとパプリカ、どちらにします?」
     刺斬は背中を向けたまま、声をかけてきた。
    「どっちでもいい」
     Ⅸ籠は気の無い返事をする。本当に、どうでもよかった。食に興味が無い。肉体維持に必要な栄養なんて薬で摂れば十分なのに、刺斬が部下に配属されてから食事を煩く言われるようになって、やむなく食べるのを付き合っている。その程度だった。それでも、付き合ってやれば刺斬は嬉しそうにする。そんな刺斬を見るのは嫌ではない。
    「刺斬は、料理が好きだな」
    「はは。そうですね。食べるのも好きですけど、作る方がもっと好きです」
     刺斬が手を止めずに言う。
     知ってる。と、Ⅸ籠は思った。そして作るよりも、鎖が「うまい」と言って喜んで食べるのがもっと好きだということも。
     やがてじゅうじゅうと油の跳ねる音が部屋に響き始めた。
    「ボスが今読んでる本、鎖さんが好きな料理が多く載ってるんでよく読むんですけど、ボスは気になるのあります?」
     刺斬に再び声をかけられて、Ⅸ籠は興味なく眺めていた本に焦点を合わせた。暇つぶしに近くにあった適当な本を広げただけで、読みたかったわけではない。
     本は料理のイラストと、手書きの文字で材料と手順が書かれていた。写真を載せるほうが簡単なのに、精巧な描写のイラストと手書き文字にしているあたり、手の込んだ本であることが分かる。本の表紙を見ると「大切な人に作ってあげたい栄養バランスレシピ」と書かれていた。
    「その本、他のレシピ本とはちょっと雰囲気が違うんですよ。かなり昔に刷られた本らしいんですけど、体に良さそうなんで俺も気に入ってます」
    「ふぅん」
     Ⅸ籠は相槌を打って、ぱらぱらと本のページを送る。刺斬が作ってくれたことのある料理のイラストが所々に見受けられた。気になるものはあるかと言われても、興味の無いものを気にすることなんてできなかった。
    「その本に載ってる料理の材料欄に必ず愛情って書いてあるんですが、作り方の手順には入れる工程が書いてないんですよ。本の冒頭には愛情を入れると料理は美味しくなるって書いてあるんですけどね。なのでその本のレシピは成功したことがないんです。気持ちを入れるという事なのは何となく解るんですけど、どう入れたらいいのやら…」
     と、刺斬が半分は独り言のように言った。その声色からは少し残念そうな雰囲気が感じられた。
    「…気持ち…?」
     Ⅸ籠は不可解になって本に集中を向けた。確かにどのレシピの材料にも「愛情をたっぷり」と書いてある。
    「鎖さんは味が濃いのが好きなんですけど、塩分は控えたほうがいいそうで。戦闘で怪我するのは仕方無いにしても、健康な体でいて欲しいんですよね。もちろん、ボスもですよ。なので、塩を少なくして代わりに酢や出汁粉や香辛料を入れてます。あ、これは鎖さんには内緒で…」
     刺斬はいつも自分の事よりも他人…特に鎖の事を考えている。鎖は煩いしすぐ怒るけど、刺斬にとっては兄弟みたいなものだから、大事に思う気持ちは分からなくはない。
    「刺斬がそうやって、鎖のこと考えて作ってるのが、気持ちを入れたってことになるんじゃないか?」
    「え?」
     刺斬は手を止めてⅨ籠の方へ振り返った。
    「だから鎖はいつも、うまいって言って食べてる。それは成功してるってことだろ?」
    「…ははっ、そういうことスか…」
     刺斬は小さく呟いて、ニット帽を深くかぶり直し目を伏せる。
    「ボス、教えてくださって、ありがとうございます」
     そう言いながら、刺斬はキッチンの方へ向く。その間際で、刺斬のとても嬉しそうな横顔が見えた。
     料理を再開する刺斬の鼻歌は、少しだけ大きくなっていた。
     
     
     
     
     
    終わる


    ある博士の夢

    サージェイドという存在に関わった人のお話。


     ある日、それは唐突に姿を現した。
     陸地から離れた海の沖にそびえ立つ、巨大な花のような物体。真っ直ぐに伸びた茎のような部分は海上から700メートル以上の高さもあり、頂上には睡蓮に似た形状をしている。形こそ蓮田に咲く睡蓮を思わせるが、水晶のように白みがかった透明の中身は満天に星が輝く宇宙が見えていた。
     世界中の科学者が花のような物体に興味を持ち調査に当たったが、何の結果も出せなかった。異常なまでに硬質で何をしても傷ひとつ付かないため、サンプルの採取ができず物質の解析ができなかった。
     世界各国のメディアは謎の花の話題で持ち切りになり、ある国ではエイリアンの侵略だと恐れ、ある国では新たなエネルギー資源になるのではないかと期待を寄せている。
    「谷田部博士、あの花は一体何でしょう?」
     助手の笹原は隣に立つ白衣の男に声をかける。しかし谷田部は研究室のモニターに映る花のような物体を凝視したままだった。その瞳の奥には、覚悟を決めた強い意志が宿っていた。
    「ついに来たか…」
    「え? 何です?」
     谷田部の小さなつぶやきを聞き逃した笹原は首を傾げた。
     
     ヘリコプターの中で谷田部は目を閉じて考え込んでいた。隣の席に座っている笹原は落ち着かない様子で谷田部と窓の外を交互に見る。ヘリコプターは花のような物体へと向かっていた。
    「谷田部博士は、あの花をご存じなんですか?」
     沈黙に耐えられなくなった笹原は遠慮がちに谷田部に声をかける。すると谷田部は薄目を開けた。
    「笹原くん。君は多元宇宙論や並行宇宙を信じているかい?」
    「へ?」
     問いを問いで返され、笹原は間抜けな声を出す。
    「あ…いえ、僕は宇宙分野はあまり…。でも僕は、とても巨大な宇宙がひとつだけ存在していると思っています」
    「そうだ。我々が観測できて認識できる宇宙は、ひとつだけなんだ。だからひとつしか存在しないという考えは正しい。しかし宇宙は複数存在する。通常では認識できない宇宙が多数に、だ。…その宇宙の総数を計ることはできないが、全ての宇宙を集約しようとしている存在が有る」
    「谷田部博士…?」
     突然の話に訳が分からず、笹原は谷田部の様子を伺うように見上げる。谷田部の話は止まらなかった。
    「宇宙が集約したらどうなるのか。複数ある宇宙が重なって存在するようになるのか、或いは超過密となって存在崩壊するのか、再びビッグバンが起きて宇宙創成が始まるのか…。どうであれ、人類がそれに耐えられるはずがない」
    「は、はぁ…」
     谷田部の話に、笹原は意味が分からないまま頷いた。今まで谷田部がこんなに宇宙について話すことが無かったし、宇宙分野が得意ではない笹原にとって谷田部の話は途方もない内容に思えた。
     やがてヘリコプターは花のような物体へ近づき、谷田部と笹原は直径300メートルほどの睡蓮のような部分へ降り立った。谷田部は操縦士に少し離れた上空で待機するように命じた。
    「うわぁ、すごい…。宇宙の上に立ってるみたいだ。絶景ですね」
     笹原は足元に広がる宇宙空間のような景色に感嘆の溜め息を漏らす。しかし谷田部は花の中心部分に当たる雌しべに似た部分を見詰めていた。
    「この際だから…君に全てを話そう。笹原くんは、正夢や予知夢の類いは信じているかい?」
     谷田部はゆっくりと笹原へ顔を向ける。
    「今度は夢の話ですか? 僕はそういったオカルトやスピリチュアルなんかは信憑性が欠けるので信じていません。でも物理科学は信じられる。だから僕はいろいろな発明や発見をして世界に貢献してきた谷田部博士に憧れて、ずっとついてきたんです」
    「…そうか」
     谷田部はゆっくりと頷いて、少しだけ顔を伏せた。
    「私は…世界的な発明や新発見をしてきたわけじゃないんだ。知っていたことを公表しただけなんだよ。君の気持ちを裏切ってしまうようで、本当に申し訳ない」
    「え? …どういう意味ですか?」
    「私は、別の宇宙の地球に住んでいる。そしてこの地球は、私にとって夢の世界なんだ」
    「あの…さっきから、何を言っているんですか? 谷田部博士は冗談は好きではないと思ってましたが…」
    「信じてもらえないだろうが、私は夢を通じて並行宇宙…いわゆるパラレルワールドを行き来している。私はこの能力で今までいくつかの地球の最期を見てきた。本当の私は延命処置を受けている386歳で、自分では指一本も動かせない。この体もこの夢の世界だけのものだ」
    「すみません、谷田部博士。話が理解できないのですが…」
     笹原は谷田部の突拍子もない話に混乱し、怪訝な表情を浮かべる。けれど、谷田部の表情は訴えかけるような真剣そのものだった。
    「この巨大な花のような物体は、宇宙を集約しようとしている存在だ。私の現実世界では“星喰らう化け物”と呼んでいる。形こそ様々だったが、私はこれを何度も見た。そして地球の最期も。私の現実世界の地球ではこの“星喰らう化け物”を危険視していて、世界各国が宇宙集約を止めようと必死になっている。いずれ、私の現実世界の地球にも“星喰らう化け物”現れる可能性があるからだ。私の現実世界の地球は、この地球よりももう少し文明が進んでいる。だが、夢の中のものを現実世界に持ち出すことはできないし、その逆もできない。私の現実世界でどんな強力な兵器を開発しても、どうすることもできない…。本当にすまない。私の本当の役目は、少しでも多くの“星喰らう化け物”の情報を得ることなんだ」
     谷田部は花の中心に向かって歩き始めた。理解できないままの笹原が後を追う。
     花の雌しべのような部分がぐにゃりと動いて白一色に染まる。見る見るうちに形を変え、長い尻尾を有した人型の形をとった。金色の2本の角と青色の長い髪を生やした真っ白な肌の子供の姿になり、あどけない表情を浮かべ谷田部と笹原を見る。
     その光景に口を開けて硬直する笹原と、知っていたかのように冷静な谷田部。
    「久しぶりだな」
     と、谷田部は真っ白な子供に向かって言った。少しでも時間稼ぎをする算段だった。
     真っ白な子供は長い尾をゆっくりと振りながら、警戒心の無い様子でこちらを伺っている。
    「君が宇宙をひとつにしようとしていることは知っている。…交渉に応じてくれないか」
     しかし真っ白な子供は、背中にコウモリの骨格だけのような翼を生やして大きく広げると首を横に振った。
    「交渉に応じる気は無い…か。何故、宇宙の集約をしている? 集約された宇宙はどうなる?」
     谷田部の問いに、真っ白な子供は両手を胸の前へ重ねた。それはまるで誰にも言えない秘密の事であることを表しているように見えて、谷田部は「そうか」と呟いた。
     ぽつりぽつりと、周辺に光の粒子が漂い始める。それがこの世界の最期の始まりであると知っている谷田部は、唇を強く噛みしめた。時間稼ぎは失敗したようだった。
     別の並行宇宙でどんなに強力な兵器を用いても“星喰らう化け物”に傷ひとつ付けるどころか、兵器や機械自体が攻撃を拒むように作動しなくなる。その事を知っている谷田部は弾かれた様に走り出し、白衣のポケットに入れておいたナイフを握りしめて真っ白な子供に向かって突き立てる。何としてでも“星喰らう化け物”を止めなければいけなかった。この化け物に殺されてしまうかもしれないが、それでもこの体は夢の中のものだ。死ねば現実世界に戻るだけでしかない。だからどんな無謀にも恐怖は無かった。
     しかしナイフは真っ白な子供の肌に刺さる直前で色とりどりの花びらへ変化し、はらりはらりと散り落ちた。力の入った谷田部の手は数枚の花びらを握りしめるだけとなる。
     がくりと、膝をつく谷田部。どうあってもこの存在を阻止することが不可能であると知り、絶望する。頭の中はもう何も考えられなかった。
    「谷田部博士!」
     笹原の声が遠くに感じた。
     真っ白な子供は穏やかな表情のまま谷田部に顔を寄せて、何かの言葉を囁いた。それは人間や動物が発するような声ではなく、鉄琴や弦楽器を組み合わせたような音に近かった。
     谷田部が恐る恐る顔を上げて真っ白な子供を見上げると、視界が歪んだ。世界の全てが光に包まれ一点に集まろうとする。目が回るような光景に意識が遠退く。
     痛みも苦しみも無く、何かの感情を覚える隙間すらない、何度目かの最期。
     
     
     
     気が付けば、見慣れた部屋にいた。
     生命維持装置のカプセルの中から分厚いガラス越しにいくつもの機械やモニターが見える。そのモニターのひとつに、谷田部が見てきた光景が映されている。
    「…駄目だった…」
     殆ど声にならない掠れた声で、谷田部は呟いた。その声は誰にも届かない。
     悪夢から覚めた現実世界。骨と皮だけの体は指一本動かせず、内臓の大半もとっくに人工の物になっている。けれど、脳だけは精密な機器に包まれて若々しく保たれていた。
    「谷田部さん、お疲れ様です」
     生命維持装置カプセルに内臓されているスピーカーから声がする。
    「今回の件で“星喰らう化け物”に物理的な攻撃は一切効かないことが判明しました。また、人語を理解している様子が伺えました。そして大変貴重な音声を得られましたよ。さっそく解析が始まっています。…それでは、次の夢に備えてください」
     地球最期の悪夢はこれからも続く。次の夢の中の地球がどんな世界になっているのかは分からない。たった十数分だけの“星喰らう化け物”との対面のために、また生まれた瞬間からの人生を歩む夢を見なければいけない。
     谷田部は目を閉じて睡眠導入剤が投与されるのを待った。
     心の片隅で思うことがある。いつ終わるのか分からない“星喰らう化け物”の阻止を目的として生かされ続けているこの現実の方が、悪夢なのではないか…と。
     
     
     
     
     
    終わる


    ある高校生のおまじない

    サージェイドという存在に関わった人のお話。


     暖か陽が差し込む教室で、静かな時間が過ぎる。
     和やかな雰囲気の授業風景。しかし、オデットの心はざわついていた。
     オデットは名門校であるアーテロイド高校で一番の成績を収める優秀な生徒で、容姿も麗しく、全生徒からの憧れの存在。
     でもそれは、エレーヌが転校してくるまでだった。
     エレーヌは2ケ月ほど前に転入してきた学生で、愛嬌がありとても可愛らしい容姿をしていた。それだけでなく、オデットに負けず劣らずの成績の生徒だった。
     生徒からの人気はオデットとエレーヌが二分するようになってしまい、オデットはそれが面白くなかった。エレーヌに負けたくなくて今まで以上に勉強に励むようになり、その反面ピリピリとした雰囲気になってしまっていた。
    「ねぇ、オデット。エレーヌって生意気じゃない?」
    「え?」
     ある日、授業の休み時間に友人のナタリーから言われた言葉は、意外なものだった。
    「だって、転校してきたばかりなのに、あんなにチヤホヤされちゃってさ」
     ナタリーはじっと横目で教室の端を見遣る。その視線の先はエレーヌの姿があり、その周りには何人かの生徒が笑顔で囲んでいた。
    「そ、そうよね…!」
     ナタリーの言葉に、オデットの心には今までに無かったエレーヌに対する攻撃的な感情が芽生えた。それはすぐに広がりオデットの心を包み込んだ。
     ナタリーはオデットの同意に気を強くし、身を乗り出すようにしてオデットに耳打ちをする。
    「帰りに、こっそりエレーヌを追いかけて、どんな家に住んでいるか見てみない? きっとオデットみたいなお嬢様じゃないから、小さな家に住んでるに決まってるわ」
     ナタリーはエレーヌの容姿は悪くないが服装が少しみすぼらしいことから、そう思っていた。
    「そうね、行ってみましょう」
     オデットはナタリーの提案に乗った。ナタリーの予想が当たっていたとしたら、少しでも自分のプライドを保てると思ったからだった。
     
    「あらあら、やっぱり。こんな街外れまで来ちゃって。ねぇ、オデット?」
     ナタリーは周囲を見回しながら得意気に笑う。帰宅時間になり、こっそりとエレーヌの後を追っていた2人は、寂れた街外れに来ていた。
     オデットは遠くに見えるエレーヌの背中と周囲を交互に見ながら、ナタリーの言う通りだと思った。所々にヒビの入ったコンクリートの道にはゴミが落ちていて、建っている家はどれも小屋のように小さいものばかりで薄汚れている。
    「あの家に入ったみたいよ」
     ナタリーは声を弾ませて、足を速めた。エレーヌの家は周囲と同じようなとても小さな家で古びていた。
     しかし…。
    「エレーヌお姉ちゃん、おかえりなさい!」
    「ただいま、みんな」
     小さな家には、たくさんの幼い子供たちがいて、エレーヌを玄関で出迎えていた。その奥から、顔色の悪い痩せ気味の女性が顔を出す。
    「おかえり、エレーヌ。ごめんなさいね、夕飯がまだ途中なの」
    「ただいま。母さんは無理しないで寝ていて。洗濯が終わったら、すぐに夕飯を作るから」
     エレーヌはそう言ってスクールバッグを玄関に置くと、家の外にある洗濯機の所へ行き手際よく衣服を入れていく。それが終わると狭い庭の草むしりと落ち葉拾いをし、少しした後に家に入って行った。間もなくして、温かな談笑の声が聞こえてくる。
    「思った通りね」
     ナタリーはオデットに向かって言ったが、オデットはエレーヌが入って行ったドアをじっと見つめたまま呆然としていた。
     笑顔の弟妹たち、病弱そうな母、家事を頑張るエレーヌの姿、ぬくもりのある笑い声。裕福であっても、多忙で不在がちな両親の代わりにメイドたちと暮らしている一人っ子のオデットにとって、知らない世界がそこにはあった。
     
     翌日、オデットはナタリーと一緒に登校し、エレーヌの姿を見つけると駆け寄った。
    「あ、オデットさん。おはようございます」
     エレーヌはいつもと変わらない様子で挨拶をする。
    「エレーヌ、あの…。私と、友達になってくれない?」
     それは、オデットの心からの想いだった。昨日のエレーヌを見て、同情でも哀れみでもなく、純粋にエレーヌの直向きな姿に憧れていた。
    「ほ、本当…? 私、ずっとお友達が欲しかったの! すごく嬉しい…ありがとう!」
     エレーヌは目を輝かせてオデットの手を握る。
    「もちろんよ。あなたと友達になれるなら、私も嬉しいんだから」
     オデットはエレーヌの手を握り返し、微笑んだ。
    「な、なによ…。どういうこと?」
     手を握り合う2人の様子を見ていたナタリーは、オデットの反応に戸惑い、口を尖らせる。
    「ごめんね、ナタリー。私のこと気遣ってくれてるの分かってるから。でも私、分かったの。本当はエレーヌを嫉みたくないって」
    「ま、オデットがそう言うなら、あたしは別にいいけど。あんたの気が楽になったってなら、それでいいわ。あんた友達作るの下手なんだから、良かったじゃない」
    「うん、ありがとね、ナタリー」
     オデットがお礼を言うと、ナタリーはにっこりと笑顔を返した。
     そんな2人の隣で、エレーヌは祈るように手を組んで目を閉じる。
    「お願い事、聞いてくれたんだ…。ありがとう、サージェイド…」
    「え? 何?」
     初めて聞く言葉にオデットは首を傾げる。
    「実は私ね、友達ができるように“おまじない”をしていたの。それが効いたんだって思って」
     と、少し照れ臭そうにエレーヌは笑った。
     
     
     以来、オデットとエレーヌはお互いに良き友として学問に励んだ。
     やがて、2人はアーテロイド高校が誇る最高の才女となり、学問の女神と呼ばれるようになった。そして国民たちから賞賛を浴びる未来となった。
     
     
     
     
     
    終わる


    カエルちゃんとサージェイド

    うちよそ作品。
    れぃんちゃん家のカエルちゃんとサージェイドで海上ボール遊び。
    カエルちゃんの水着は想像で描かせていただきました。


    あるサラリーマンの体験

    サージェイドという存在に関わった人のお話。


     天使なのか悪魔なのか分からないものを見た。多分、あれは疲れのせいで見えてしまっただけの幻覚だと思う。
     私はしがない下っ端サラリーマンだ。料理も下手な一人暮らしの何の取柄もない男。空想世界に浸れるほどの余裕はない。
     早番勤務で日が昇る前に出社し、休憩もそこそこに数時間の残業をこなして帰宅。そんなくたくたに疲れた日の帰り道だった。
     
     電車を乗り継ぎ、夕日も沈みかけた住宅街の道を力無く歩いていた。寒くも暑くもない日だったのに、嫌に寒気を感じていた。恐らく風邪だろう。昨日も勤務疲れでリビングで眠りこけてしまったのを思い出す。
     いつもと変わらぬ道を歩いていると、あまりに白すぎてまるで光っているように見える猫が道端に座っていた。この辺りの飼い猫だろうか。凛とした気品さのある猫だった。その猫が真っ赤な目でこちらを見ていた。
     特に興味も湧かず白い猫の横を通り過ぎる。ところが、白い猫は私の前へ飛び出し、進行を妨げるかのように足元に擦りついてきた。邪魔ったくなった私は短い休憩時間のせいで食いそびれた昼飯のおにぎりがあるのを思い出し、鞄から取り出した。中身は鮭だ。猫でも食べられるだろう。包み紙を広げて地面に置くと、猫はおにぎりの匂いを嗅ぎ始めた。
    「食っていいぞ」
     そう言い残して、さっさとこの場を離れた。案の定、猫は付いてこなかった。猫はいいな。ああやって愛想振り撒いていれば可愛がってもらえるんだから。
    「もっと楽に生きたいなぁ」
     今までの人生、パッとしないものだった。積もり積もった様々な不満から、思わず独り言が出てしまった。
     その瞬間、一陣の突風が吹いて、私は目を閉じた。僅かに目に入った砂埃に目を何度か瞬いて涙で洗い流す。
     不可思議な風に違和感を感じて周囲を見回すと、電線の上に「何か」がいた。
     白く光って見える真っ白な肌の子供。鮮やかな青い髪はとても長く、その頭には牛の角のように曲がった金色の角が生えていた。そして、その背には鳥の翼やコウモリような翼がたくさん生えていて、どれも色が抜けたように真っ白だった。宗教画で似たようなのを見たことがある。天使は階級が高いほど異様な姿をしている。どこの世界も上司は怖いなと思ったほどだ。
     天使とも悪魔ともつかない子供の片手にはゲームでありそうな光輝く槍が握られていて、その先の刃には真っ黒なスライムのようなものが刺さっていた。
     どう考えてもおかしい。不思議と恐怖を感じないのは、恐らく現実離れしすぎてるからだろう。酷い疲れのせいで幻覚が見えているのかもしれない。明日は仕事帰りに病院に行こうと冷静に考えた。その反面、ほんの少しだけ期待してしまった。もしこれが現実なら、疲れて過ぎていくだけの日常から異世界へ迷い込むファンタジーものの漫画や小説の主人公みたいになれるのでは…と。
     子供は真っ赤な瞳で私を見て笑った。さっきおにぎりをあげた白い猫の姿が思考を過る。そしてふわりと飛び上がると、溶けるように消えていった。
     やはり幻覚だった。私は溜め息をして再び歩き始めた。
     
     あの日以来、私はすこぶる体調が良くなり、仕事もうまくいくようになって自信が付いた。偶然に出会った幼馴染と意気投合して結婚を前提に付き合うにまで至った。何もかも順調だ。あの幻覚で見た存在が私に憑いていた悪いものを取ってくれたのかもしれない。
     幻覚で見た存在が現実のものだったのかどうかなんて、今更分かるはずも無いし調べようもない。人に話したところで笑い話にされるオチだ。
     それでも、私にとっては人生の転機を与えてくれた神様のようなものだ。目の赤い猫にはあの日以来会えていないが、白い猫に会ったら挨拶するのが私の癖になっていた。
     
     
     
     
     
    終わる


    王女とサージェイド

    ★うちよそ作品。
    運命は魂に宿り、記憶は身に刻まれ、感情は心に寄り添う。
     
    とある国の王女へ。
    祈りを込めて、良い夢を…。


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